Ⅱ 取得時効
取得時効が認められるためには、まず、所有の意思を持って、平穏にかつ、公然と他人の物を占有することが必要です。所有の意思を持ってというのは、
所有者としてという意味です。また、「平穏に、かつ、公然と」というのは、暴力を用いることなく、また秘密にすることなくという意味です。
そして占有するというのは事実上の支配をする(たとえば土地に住みついたりする)ことです。
どれか1つでも欠ければ、たとえ100年経過しても取得時効は成立しません。
次に、占有を開始するときに、善意無過失(他人の所有物であることを落ち度なく知らなかった場合)であれば、10年で取得時効が完成します。
占有を開始するときに善意無過失でなければ(他人の所有物だと知っていた場合)、取得時効が完成するためには20年間必要になります。
Ⅲ 時効の遡及効
時効が完成すると、Aの土地をBが取得したり(取得時効)、CのDに対する債権が消滅したり、Cの債権が消滅するのは時効が完成した時点では
なく、取得時効の場合には占有を開始した時点から自分のものになり、消滅時効の場合には権利行使ができた時点から消滅します。
Ⅳ 援用、放棄
長い間続いた一定の事実を承認しようというのが時効の制度です。そうであれば、一定の事実がある期間継続すれば、それだけで時効を認めても
いいように思えます。しかし、中には「人のものは人のもの」、「借りたお金は返すのが当たり前」とけじめをつける人もいます。
たとえば、AがBに貸した金銭を放棄しておいて返済期日から10年が経過したとしましょう。Bとしてはいつか返そうと思っていたのに、法律に
よって時効で債権は消滅したから返さないで良いとされたのでは、Aとの友人関係にヒビが入る結果になるでしょう。
このような場合、時効に関係なくBは借金を返したいと思うはずです。そこで、時効により利益を受ける者に、時効による恩恵を受けるのか自分の
道徳心を貫くかの決定を委ねました。つまり、時効の利益を受けるという当事者の意思表示(援用)がなければ、裁判所も勝手に時効が完成
したとはいえないのです。
援用の逆が放棄です。すなわち、時効による利益を受けないという意思を表示するのが放棄です。
放棄は時効完成前にすることは認められず、時効完成後にしかできません。金銭を借りる人の弱みにつけこんであらかじめ放棄させる
弊害を避けるためです。
Ⅴ 中断・
ある事実(AがBに貸した金銭を請求もせず放置している)が継続する場合に、法的にもその事実を認める(Aの債権が消滅する)のが
時効です。
したがって、ある事実を覆すような別の事実(金銭を返せと請求する)が生じると、時効の進行はそこで終わります。
これを時効の中断といいます。